昨年度はストレス刺激下でのFOS蛋白の聴覚中枢系における変化を絶水刺激後のラットを用いて検討したが、明らかな差異は見出せなかった。また同様の刺激後ラットを用いて中枢聴覚系における主要な興奮性神経伝達物質受容体であるNMDA型グルタミン酸受容体の聴覚中枢系における変化も検討したが、これについても明らかな差異が見出せなかった。これらの結果から我々は、まず内耳破壊という方法を用いてどんな神経伝達物質やその受容体および神経修飾因子が聴覚系に影響を及ぼしているかを再検討する事が必要であると考えた。 これら昨年度の成果をふまえて本年度は生体のストレスと密接に関与し、また中枢神経系でNMDA型グルタミン酸受容体とも関連がある一酸化窒素(NO)を中心として研究を進めた。現在、他のいくつかのグループが聴覚に障害が発生した時に内耳において起こるNO動態の変化を研究、発表しているが、我々は中枢聴覚系に主眼をおいて検討した。そして一側の内耳破壊後4週間目から同側の蝸牛神経核においてNOの増加が起こっている事を見出した。またこの増加は、神経型NO合成酵素(nNOS)を介している事も免疫組織学的に見出した。破壊後4週間目からという比較的長い時間を経て変化が起こっており非常に興味深い結果であると思われる。今後も騒音暴露や薬物投与後に起こるNO動態も検討し、その結果をふまえて今後もストレスが聴覚系に及ぼす影響を更に検討していきたい。
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