研究概要 |
内耳有毛細胞の機能および形態形成に関与する分子の解明を目的とし、有毛細胞の感覚毛に形態異常に示すJachson shaker(js)マウスからポジショナルクローニングの手法に基づき原因遺伝子の単離および機能解析を行った結果、以下に示すような知見が得られた。 連鎖解析によりjs遺伝子の存在が明らかとなった領域を完全にカバーしている約1.3MbのBACクローン群からエクソントラッピング法およびcDNAセレクション法により発現遺伝子の単離を試みた結果、約1,000種の異なったサイズを示す遺伝子断片が得られた。これら全ての断片の塩基配列を決定し、コンピューター上で解析したところ、単離した遺伝子断片のうち、10種の断片は遺伝子として発現している可能性が示唆された。 単離した遺伝子断片のjs突然変異との関連性を解析するため、正常個体とjsマウス間でその塩基配列の比較を行った。その結果、一つの遺伝子断片において、両者間に点突然変異を検出することができた。次に、この変異が認められた遺伝子の完全長の単離を試みた結果、現在までに約1.5kbの断片が単離されており、その塩基配列にはモータードメインおよびATP結合部位を示す配列が認められ、さらに、内耳有毛細胞で発現が強く認められるミオシン分子との結合部位も認められた。 一方、この遺伝子の発現を15日胚から生後4週齢の頭部から抽出したmRNAを用いて観察したところ、生後まもなく発現が強く認められ、生後5日目のステージで最も強い発現が認められた。また、他臓器における発現パターンを観察した結果、脳、脾臓および精巣においても発現が認められた。しかしながら、この遺伝子は各臓器において異なった長さの転写産物が認められ、特に内耳の蝸牛管にはオルタネイティブスプライシングによって少なくとも4種の転写産物の発現が認められた。 以上に示したように本研究によってjs突然変異の原因となる候補遺伝子が得られたと考えられる。現在、その同定をトランスジェネシスにより行っている。
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