パーフルオロフェナントレン(以下PFPと略記、比重2.03)を術中に1時間硝子体腔内に留置した場合の眼毒性を検討した。ネコ5匹および雑種イヌ5匹の片眼に、あらかじめ超音波水晶体乳化吸引術を施行した。4週間後同眼に経角膜的硝子体切除を施行して硝子体腔にPFPを1ml(ネコ)または1.5ml(イヌ)注入し、PFP注入1時間後に眼内から抜去した。術前およびPFP抜去9週後にERGを記録した。更に網膜組織像を調べ、PFPの眼毒性を多角的に評価した。結果はイヌでERG a波、b波、律動様小波、明上昇振幅および頂点潜時、SNP振幅、高浸透圧応答振幅は術前に較べPFP抜去9週後で有意に変化しなかった。光顕で網膜には大きな異常は観察されなかった。 ネコでERG a波、b波、律動様小波、明上昇振幅および頂点潜時、c波振幅は術前に較べPFP抜去9週後で有意に変化しなかった。光顕で網膜には大きな異常は観察されなかった。 PFPを4週間硝子体腔内に留置した場合の眼毒性を検討した結果、すなわちすべてのイヌおよびネコでPFP注入1週間以内に眼底透見不能になり、イヌでは10匹中6匹でPFP抜去時に裂孔原性網膜剥離が確認され、非剥離イヌ1匹で明上昇および高浸透圧応答を除くERG各波がかなり減弱し、1匹で高浸透圧応答を除くERG各波がほぼ消失していたことと、ネコ9匹中1匹でPFP抜去時に裂孔原性網膜剥離が確認され、非剥離ネコでは律動様小波と明上昇の頂点潜時は術前に較べPFP抜去9週後で有意に延長し、光顕で網膜表面や隅角、虹彩面等にPFPを含んでいたと思われる増殖組織が観察されたことなどから、数週間のPFP眼内留置は危険であると考えられ、PFPを硝子体腔内に留置する場合は術中の1時間程度の使用であれば可能であると考えられた。
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