研究概要 |
網膜虚血障害に対するチロシンキナーゼ抑制剤であるゲニスタインの効果を生化学的、組織学的に検討した。200-250gのラット80匹を用いて、Stefanssonらの方法に従い、網膜虚血-再灌流障害モデルを作成し、チロシンキナーゼ抑制剤であるゲニスタイン3.4mg,0.34mg,0.034mgあるいは溶媒のみを虚血前、虚血直後に全身投与し、再灌流開始48時間後に安楽死させ、網膜内蛋白質の変化を蛋白電気泳動およびウエスタンブロット法を用いて検討した。すでに我々は、同モデルにおいて網膜内蛋白の変化として再灌流開始48時間後に72kDaのバンドが著明に増加することを報告しているが(Invest Ophthalmol Vis Sci,1997)、ゲニスタインの投与量が増加するに従い、この72kDaのバンドが弱くなっていくことが明らかになった。また、網膜内チロシン化蛋白質のウエスタンブロットでは、ゲニスタインの投与量が増加するに従い、網膜内チロシン化蛋白質が低下した。同標本で細胞増殖のマーカーの一つである増殖性細胞核抗原(PCNA)の変化をウエスタンブロットで検討した結果、網膜内チロシン化蛋白質と同様にゲニスタインの投与量が増加するに従い、PCNAのバンドが低下した。 次にゲニスタイン投与による網膜虚血障害に対する効果を組織学的に検討するため、網膜虚血-再灌流障害後168時間でラットを安楽死させ、眼球摘出後、4%パラフオルムアルデヒドで固定し網膜組織切片を作成した。網膜各層の厚みを測定した結果、ゲニスタインの濃度依存性に網膜虚血障害は軽減した。網膜各層の厚みのうち、内境界膜-外境界膜間、内網状層、内顆粒層は、ゲニスタインの投与量が増加するに従って増加し、ゲニスタイン3.4mg投与した群では、溶媒のみを投与した群に比較して、統計学的に有意に増加し、虚血障害が抑制された。しかし、網膜各層の細胞密度の変化では、統計学的に有意な差は認められなかった。以上の結果からゲニスタインの全身投与により網膜虚血障害が抑制できることが明らかになった。
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