研究概要 |
種々の疾患での生体内水分子動態の変化について,これまでにプロトン核磁気共鳴法を応用した数多くの研究がなされている.一方,硝子体は種々の条件下で有形成分液化が進行し,病態と複雑な関連性を持っていることが知られている.これまで我々は核磁気共鳴法を応用して硝子体水構造解析を試み,硝子体内結合水が複数成分からなること,グルコース添加により結合水が増加し各成分の緩和時間が変化することなどの新知見を得た.本研究では硝子体液化の引き金を探り,硝子体線維の収縮・牽引を引き起こすことなくすべての硝子体を液化させる手法を見いだすことを目的とした.実験では新鮮な豚眼より可能な限り非侵襲的に摘出した硝子体をNMR資料管に封入した後,in vitroにて緩和時間ならびに化学シフトの測定を行った.次いでこの硝子体を液体窒素にて-80度に急速冷凍して自由水を完全凍結させ,不凍水(結合水)の緩和時間と化学シフトを同様の手法により測定した.その結果,豚硝子体は大量の自由水を含み,結合水成分は量的にかなり少ないこと,結合水成分の横緩和時間は自由水と比較してかなり長く(約10倍)動的に動きにくい状態となっていることを確認した.次に,有形硝子体周囲のイオン環境や膠質浸透圧を変化させることにより硝子体ゲルの相転移を試み,経時的な緩和時間ならびに化学シフトの変化の有無をみた.またこの際にも先ほどと同様に液体窒素により硝子体を急速に凍結させ,結合水の変化を検索した.硝子体の相転移を引き起こす物質として,界面活性剤,種々のイオン,グルコース,コンドロイチナーゼやコラゲナーゼといった硝子体線維の架橋結合を切る酵素類を用いた.これらの研究結果は過去の結果と合わせ,第101回日本眼科学会およびARVO総会にて発表を行った.現在,平成10年度in vivoイメージング実験に向けて,より有効な硝子体液化法を見つけるべく実験を継続中である.
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