本研究では、トランスフォーミング成長因子β1(以下TGFβ1)の発現をアンチセンスデオキシオリゴヌクレオチド(以下ASDON)で抑制することにより、緑内障濾過手術後の過剰な瘢痕化を抑制し、その手術予後を改善することを目的とした。 本年度は、培養細胞による実験を中心に、一部、病理組織による研究も行った。培養ヒト眼テノン嚢線維芽細胞は、TGFβ1非添加でも、基礎的分泌としての結合組織産生が確認されたので、この基礎分泌を、TGFβ1ASDONで、抑制することは困難との結論を得た。そこで、TGFβ1による培養嚢線維芽細胞の細胞外マトリックス代謝の変化を検討し、細胞外へのコラーゲン、ファイブロネクチンの亢進と細胞層への沈着増加を確認し、同時に基底膜成分ラミンンは影響されないことを見いだした(投稿中)。予備実験として、結合組織成分を転写レベルで抑制するγインターフェロンをTGFβ1刺激細胞に添加すると、コントロールレベル以下にまで、結合組織産生を抑制したことから(投稿中)、同刺激細胞を培養条件下での創傷モデルとして使用し、次年度の研究に入る。一方、眼結膜局所の瘢痕化での結合組織代謝を研究する目的で、ヒト臨床材料や動物眼を用いて結合組織成分、TGFβ1などの成長因子、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)を標的として、病理組織標本による免疫組織化学、in situハイブリダイゼイションを行った。結合組織代謝、成長因子発現の亢進を確認し、うち、MMPの発現亢進を報告した。以上のように、この結合組織代謝の亢進には、TGFβ1の発現亢進が関与していると考えられた。次年度の動物眼で結膜下瘢痕へのTGFβ1ASDON実験のための基礎データを得た。
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