病理組織学的検討においては、白色家兎に対して超音波水晶体乳化吸引術を行い、細隙灯顕微鏡による観察と写真撮影を行うとともに経時的(術後早期から3か月後まで)に眼球を摘出し、病理組織標本を作成した。通常の光顕的観察を行うとともに酵素抗体法によって細胞のアポトーシスと増殖を検出した。その結果、アポトーシスは全後嚢が接着する創傷治癒部位においてα平滑筋アクチンの発現とほぼ一致して術後5日より3カ月まで認められ、電子顕微鏡的にアポトーシスが生じていることが確認された。細胞増殖の検討結果は従来の報告とほぼ一致していたが、創傷治癒部位付近に水晶体再生の過程で生じる増殖帯が新たに生じることが確認された。 培養水晶体上皮細胞の検討では、眼房水中に存在することがわかっているTGF-βを培養液に添加したところ、α平滑筋アクチンの発現はやや促進されたが、統計的に有意な結果は得られなかった。またこの因子の添加によってアポトーシスの発現は有意な変化が認められなかった。これらの結果は、水晶体上皮細胞の筋線維芽細胞様細胞への偽化生やアポトーシスがやTGF-βのみによって直接制御されているわけではないことを示している。今後はその他の因子の影響や、複数の因子の相互作用、水晶体上皮細胞自身のparacrine、autocrineの作用を検討して行きたい。さらに、アポトーシスに関与するbcl-2やp53の発現に関しても検討する必要がある。
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