目的:以前より水晶体蛋白に対する自己抗体が多くの老人性白内障患者血清中に認められることは報告されており、細胞培養系では抗水晶体蛋白抗体が水晶体上皮細胞に付着し障害を与えることは報告されている。しかし抗体が水晶体嚢を通過するかの検討はなされていない。 今回ラット水晶体器官培養において抗体が水晶体嚢を通過し、上皮細胞に障害を与えるかを検討した。 方法:摘出したLewisラットの水晶体を3時間の予備培養後、マウスβ-クリスタリン抗体及び100kDa以上で分離した白内障患者血清を加え24時間培養し、その上皮細胞障害の程度をトリパンブルー染色法にて検討した。対照として各々非感作マウス血清、健常人血清を用いた。 結果:マウスβ-クリスタリン抗体、白内障患者血清を投与した両群において中央部よりも増殖帯で障害が強く、増殖帯では600〜700/mm^2の上皮細胞障害を認めた。対照群では障害された上皮細胞は100/mm^2以下であった。 結論:以上の結果より抗水晶体蛋白抗体が水晶体嚢を通過し、上皮細胞に障害を及ぼすことが示唆され、もし抗体が眼内に移行するならば血清中の抗水晶体蛋白抗体が白内障を起こす可能性があると思われた。 今後の研究計画:血清中の抗体が血液ー眼関門柵の障害により眼内に移行し、水晶体上皮細胞を障害するか否かを確認する。また抗体自体の存在を酵素抗体法を用い、検索する。
|