シスプラチンは有効な制癌剤であるが、用量依存性の腎毒性が発現するため、臨床使用において大きな制限が加えられる。シスプラチンの腎毒性発現の機序の一つに活性酸素の関与が考えられている。今回、脂質過酸化物や過酸化水素の消去作用をもつ有機セレン剤エブセレンを用いて、シスプラチンの腎毒性軽減効果を検討した。「実験方法」動物は雄性SD系ラット(8週齢)を用い、対照群、シスプラチン5mg/kg投与群、エブセレン2.5mg/kg-シスプラチン5mg/kg併用群そしてエブセレン2.5mg/kg投与群に分けて行った。腎機能検査として血清尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cr)値を測定した。また腎臓中の過酸化脂質量及びグルタチオンペルオキシターゼ(GSH-Px)活性についても測定した。「結果及び考察」血清BUN及びCr値はシスプラチン投与群では対照群より著しい上昇が見られたが、エブセレン-シスプラチン併用群ではBUN及びCr値の上昇は認められなかった。組織学的所見はシスプラチン投与群では近位尿細管のほぼ全域に脱落再生異型上皮細胞と上皮細胞の消失を認めたられたが、エブセレン-シスプラチン併用群では近位尿細管に小範囲で部分的な細胞障害を認めるのみであった。腎臓中の過酸化脂質量はシスプラチン投与群は対照群より有意に増加していたが、エブセレン-シスプラチン併用群では過酸化脂質量の増加は認められなかった。腎臓中のGSH-Px活性はシスプラチン投与群では対照群に比べ有意な低下を示したが、エブセレン-シスプラチン併用群ではGSH-Px活性の低下は見られなかった。以上のことより、エブセレンはシスプラチン誘発腎毒性に対し、軽減作用をもつが、その効果は非用量依存性であった。エブセレンの腎毒性軽減効果はシスプラチンによる過酸化脂質の生成及びGSH-Px活性の低下を抑制することに起因しているものと考えられた。
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