当申請者のグループでは数年前からエナメル芽細胞の初代培養方法を無血清培地を用いて開発しつつ、その培養条件下における細胞の生理的特性や分化状態を研究している。これらの成果として、培養下においてエナメル芽細胞は、1.もっとも分裂活性が高い遊走段階、2.分裂活性が低く、遊走細胞が集合することで形成するクラスター形成段階、3.分裂停止し、エナメル基質産生を開始する背の高い細胞段階、という分化を示すことを明らかにしている。そして、咋年度はそれぞれの分化段階における分化マーカーの探索を行い、HGFレセプター(c-Met)、ケラチン14(K14)、アメロジェニン(En3)それぞれに対する抗体を利用して、これらの発現パターンを見る事でその分化段階をvitroにおいても判定できることを明らかにした。そして現在の課題は、高カルシウム条件下または長期培養により、しばしばフォン・コッサ染色陽性の石灰化様構造の形成を観察しており、この現象の解明である。なぜならば、エナメル質の石灰化には隣接する象牙質に依存して進行すると従来より考えられており、エナメル芽細胞のみの我々の系での石灰化現象は、現状では説明ができないからである。 そこで、本年度は、エナメル質分泌段階のエナメル芽細胞に特異的な分化マーカーの探索を第1の目標とし、抗体を使った既存のタンパク発現の検索と石灰化度や各種酵素活性を利用した分化の判定法を試行してみた。すなわち、ラットE18-P2の下顎を材料とし、未固定・非脱灰・凍結切片を作成して、これに次のような免疫または組織化学染色を行った。 (1)PTHrP、ガルバインディン、オステオカルシンなどに対する抗体を用いての免疫染色。 (2)アルカリフォスファターゼ活性にもとづくAP染色、TRAP染色。 (3)成熟期でのアポトーシスの可能性を考えて、TUNEL法。 これらの結果、抗カルバインディン抗体が有望であることがわかり、継続して解析中である。また、細胞培養中の石灰化定量のために0CPC法導入に成功した。これらの成果により、分化段階の判定と石灰化の程度判定が可能になった。そこで次年度では、石灰化現象のひきがねとなるのは何かを具体的に探りたい。
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