歯牙の発生および形態の形成過程には、細胞増殖や細胞死の発現が大いに関与し、それらは上皮ー間葉相互作用により制御されるものと考えられる。この過程の解明には、まずは細胞増殖域や細胞死の経時的および空間的な発現パターンの把握が必要となる。 本研究では、胎生11-19日齢のマウスの下顎第一大臼歯を対象とし、細胞増殖域の検索にはBrdU免疫染色法を、細胞死の発現域の検索にはTUNEL法を、また両者の二重染色法も用いた。さらに発育段階毎に3次元的に復構し、これらの発現パターンの変化について検討した。 BrdU陽性細胞の頻度的な差は多少伴うものの、観察した全発育段階の歯胚の各部位において認められた。むしろBrdU陰性となった領域が空間的に特徴的であった。その陰性領域は、蕾状期後半から帽状期ではprimary enamel knotに、鐘状期では将来の咬頭頂に相当する思われるsecondary enamel knotsの細胞密集域に認められた。この陰性域は単発的な発現ではなく、歯胚成長とともにその範囲を変化および移動させていく様が観察された。また鐘状期後半のodontblast、ameloblastはBrdU陰性であった。一方、TUNEL陽性細胞はprimaryおよびsecondary enamel knotsに認められた。またbud形成時から全過程を通して、歯胚の近心端の歯牙上皮全体とdental laminaに陽性細胞が認められた。さらに二重染色法によりprimaryおよびsecondary enamel knotsでは相対的にTUNEL陽性域はBrdU陰性域より限局しており、増殖、細胞死に関与しない、いわば細胞不活性領域の存在も確認された。以上より、歯牙形態形成過程には細胞増殖と非増殖と細胞死との調和が示唆された。今後はさらにこれらの現象に関与する制御因子およびその伝達経路について検索を進める予定である。
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