研究概要 |
ここ数年来私どもは、成人性歯周疾患の主要病原菌であるPorphyromonas gingivalisの線毛が、定着因子としての働きを持つ一方、同疾患において認められる歯槽骨の吸収に深く関与していることを示唆する知見を得ている。従い、本線毛により誘導される炎症性サイトカインを始めとした、破骨細胞の活性化に関与する因子の発現制御機構を明らかにすることは究めて重要な事と考えた。一方ごく最近、一酸化窒素(Nitric oxide,NO)が破骨細胞の重要な調節因子として作用することが明らかにされた。そこで私は成熟破骨細胞分化誘導活性測定系において、P.gingivalis線毛による破骨細胞の分化にNOが関与するか否かを検討したところ、本線毛刺激により有意にNO産生が上昇し、このNOにより破骨細胞の分化が促進される事の知見を得た。さらにここに、近年、抗炎症性サイトカインとして注目されているTransforming Growth Factor-β(TGF-β)を添加し、骨吸収活性に与える影響を検討した。私自身、TGF-βが骨芽細胞における機能発現を制御するautocrine factorとして働くことを明らかにしており、また、破骨細胞前駆細胞の分化は骨芽細胞など他の骨原性細胞により厳密にコントロールされているものと考えられている。従い、TGF-βが同実験系におけるNO産生をコントロールする可能性が考えられた。その結果、P.gingivlis線毛処理後24時間で誘導されたNOは、TGF-β処理により濃度依存的に抑制された。さらに、TGF-βは線毛刺激により誘導された、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)遺伝子発現を抑制した。また、この抑制効果はTGF-β前処理によって、より顕著であった。これらの現象はTGF-βがP.gingivalis線毛により誘導されるサイトカイン産生を抑制することにより、本実験系におけるNO産生を制御することを示唆するものである。
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