機械的刺激によって惹起される骨芽細胞の分化および骨形成の促進における局所因子の変化を解明する目的で、マウス頭頂骨矢状縫合部に張力を加え、骨芽細胞のマーカー遺伝子および骨芽細胞の分化、増殖に特異性の高い局所因子の遺伝子発現について検討した。 マウス頭頂骨培養系の矢状縫合部に、矯正用ワイヤーで作製したバネによって持続的張力刺激を加えた状態(実験群)、あるいは加えない状態(対照群)で0、1、6、24、48時間器官培養を行った。対照群では骨芽細胞のマーカーであるALPase活性は、骨基質表面に接する骨芽細胞、および数層の前骨芽細胞様細胞に検出され、縫合部中央の紡錐形の細胞にはほとんど検出されなかった。一方、張力刺激を加えた群では、経時的に縫合部は伸展され縫合部細胞は扁平化し、6時間、24時間では縫合部の伸展にともない、ALPase活性陽性細胞層が帯状に増加し縫合部中央のごく一部を残すところまで伸張した。48時間ではこれらの細胞間に石灰化骨基質が形成された。また縫合部組織を切り出して総RNAを抽出し、RT-PCR法により遺伝子発現について検討したことろ、張力刺激を加えた6、24、48時間群で、骨芽細胞の分化促進因子の一つであるBMP-4のPCR産物量が対照群に比べて増加している傾向が見られた(1.2^〜2.3倍)。ALPase、I型コラーゲン、ネステオカルシンについては、3回繰り返した同様な実験の中で対照群と実験群の間に一定した明らかな差は見られなかった。 以上の結果から、機械的刺激による骨芽細胞の分化促進過程には、BMP-4の遺伝子発現の増強が関与している可能性が示唆された。
|