近年、我国では口腔乾燥症の患者が増加し、その治療と予防が極めて重用視されて来ている。この疾患の機序については全く不明であり、治療方法もないのが現状である。本研究はヒスタミン(H)前処理による耳下腺アミラーゼ分泌の脱感作現象をモデルに用いて(1)H受容体の動態とその調節機構(2)H受容体に共役している細胞内情報伝達系の動態とその調節機構を追求するもので、本年度は下記の成果を得た。 1.耳下腺H受容体の性質とこれに及ぼすH前処理の影響 Hによるアミラーゼ分泌はヒスタミンH_2(H_2)受容体を介するもので、H_2受容体に特異的に結合する[^3H]チオチジンを用いた結合実験によって、[^3H]チオチジンのBmax値は8週齢のラットの耳下腺で177±7fmol/mg proteinであった。このBmax値はHとの反応によって237±13fmol/mg proteinに増加したが、2度目のHとの反応によって111±8fmol/mg proteinへ減量した。[^3H]チオチジン結合に対するH_2作動薬のIC_<50>値も著しく増加した。従って、ラット耳下腺にはH_2受容体が存在しており、H前処理によりこの受容体は減量するとともに、この受容体の作動薬に対する感受性も低下した。 2.耳下腺組織内c-AMPに及ぼすH前処理の影響 耳下腺組織内c-AMP量はHとの反応により著しく増加した。しかし、この前処理後再びHと反応させると組織中のc-AMP量は減少した。従って、H前処理により受容体に共役するGTP結合蛋白質の機能の低下が示唆された。 3.耳下腺GTP結合蛋白質(GsおよびGi)のADP-リボシル化に及ぼすH前処理の影響 ラット耳下腺細胞膜GsのADP-リボシル化はHとの反応によって促進されたが、この前処理後再びHと反応させても全く変動しなかった。一方、GiのADP-リボシル化はHによる脱感作誘導時にのみ促進された。 以上の研究結果からH前処理によるアミラーゼ分泌の脱感作にはH_2受容体の機能低下とこの受容体に共役しているGiの機能の亢進が密接に連関していることが明らかにされた。
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