1.シアリル化糖鎖の調製 ブタの永久大臼歯歯胚より削り集めた幼若エナメル質から抽出され、HPLCによって精製された32kDaエナメリンについてV8プロテアーゼ及びプロナーゼを作用させ、HPLCを行うことによって、このタンパク質の糖鎖結合部位である72Asn、79Asn、91Asnをそれぞれ1箇所ずつ含む3つの糖ペプチドが精製された。これらの糖ペプチドについてグリコペプチダーゼFを用いて糖鎖を遊離させ、PA化を行い、糖鎖分析を行った結果、既に判明している32kDaエナメルリンに結合している8種類のN型糖鎖のうち、72Asnと79Asnの結合部位からの5種類と2種類のバイアンテナ型のPA化糖鎖が、また91Asnの結合部位からは3種類のトリアンテナ型のPA化糖鎖が検出された。 2.酵素の調製及び反応 ブタ幼若エナメル質から抽出及び硫安分画を行うことで得られた32kDaエナメリンを含む画分を粗シアリダーゼ試料をして、上記のPA化糖鎖に対して作用させ、反応前後でのHPLCの溶出パターンを比較したが、両者に差は認められなかった。また、この粗酵素試料を用いて行った、ムチンを基質としたザイモグラフィーの結果からも活性バンドを検出することができなかった。 今回の実験では、硫安分画により32kDaエナメリンが抽出される画分を粗酵素試料として用いているので、シアリダーゼが、これ以外の画分に存在している可能性もある。それゆえに、シアル酸の結合状態の多様性が、シアリダーゼによる脱シアル化によって生じるのか、あるいは糖鎖の生合成過程において生じるのかということについては、明らかにできなかった。今後、硫安分画によって得られる32kDaエナメリンを含まない画分についてシアリダーゼの有無を検討すると共に、さらには32kDaエナメリンに結合している、これらのシアリル化糖鎖が歯の石灰化過程においてどのような機能を有し、またどのような役割を演じているのかを解明することが必要とされる。
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