研究概要 |
ラット顎下腺ミクロソームに認められたチオールS-メチルトランスフェラーゼ活性は、ジチオスレイトールを基質とした比活性で約20pmol/min/mg proteinであった。本活性は、既に性状が明らかにされている諸組織の酵素と同様にS-アデノシル-L-ホモシステイン感受性、Ca^<2+>およびMg^<2+>非要求性を示した。基質特異性では、ジチオスレイトールに構造が類似する1,4-ブタンジチオールに対してジチオスレイトールと同程度の活性を示した。さらに、ジチオスレイトールを基質とした場合には、モノメチル化体とジメチル化体が同程度生成したことから、モノメチル化体の再メチル化、すなわちモノメチル化されたジチオスレイトールも良好な基質となることが示唆された。2-メルカプトエタノールに対する活性は、ラット肝臓の精製酵素ではジチオスレイトールに対する活性の100倍以上、ヒト赤血球膜の膜レベル酵素では同程度とされているが、顎下腺ミクロソームではジチオスレイトールに対する活性の約2/3であり、後者に類似していた。L-システインや還元型グルタチオンに対する活性はジチオスレイトールの数%を示したのみであった。一方、本酵素の比活性は、顎下腺の分化・増殖や特定の細胞内成分の誘導を惹起するイソプロテレノールの反復投与で低下し、酵素誘導は認められなかった。本酵素は、アルキルチオール類に高い活性を示すことから、肝臓や小腸の酵素と同様に生体物質に対する反応性が高い各種チオール化合物の解毒に機能しているものと考えられる。一方、生体内因性チオール化合物に対する活性は著しく低く、本酵素の存在意義の解明には真の生理的基質(生体内基質)の検索が必要となる。
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