研究概要 |
歯原性上皮は本来歯の発生に関わる組織であるが、嚢胞や腫瘍への病的変化も稀ではない。これらの病変では、上皮性組織の特徴である細胞同士の接着がみられるが、近年その接着が細胞接着分子によることが明らかにされ、腫瘍をはじめとする様々な病態において接着分子の異常が関連することが報告されている。本研究では、歯原性上皮の腫瘍化における細胞接着の動態を解明するため、歯胚および歯原性上皮由来の腫瘍における上皮性細胞同士のホモフィリックな接着に関与する接着分子E-カドヘリンおよびカドヘリンの細胞質内裏打ち蛋白αカテニンの発現・局在を免疫組織化学的に検索した。 1.組織切片および一次抗体の検討 本学歯学部附属病院口腔外科での生検・手術より得られた歯胚4例、エナメル上皮腫8例、歯原性淡明細胞腫1例を、10%中性緩衝ホルマリン溶液で一晩固定し,通法に従いパラフィン包埋し,3μmの連続切片として用いた。一次抗体としては,E-カドヘリン(Monosan)およびαカテニン(Transduction Laboratory)に対するマウスモノクローナル抗体を用いた。免疫組織化学における酵素処理や熱処理などの前処理および一次抗体の希釈濃度を検討した結果,前処理としては0.1%トリプシン溶液30分間消化で,また希釈濃度はE-カドヘリンは1 : 20、αカテニンは1 : 50で良好な染色態度を得た。 2. E-カドヘリンおよびαカテニンの発現・局在の検討 歯胚の上皮組織においては、歯堤上皮・外エナメル上皮・星状網・中間層で、基底膜に接する部位を除く細胞膜領域に明瞭なE-カドヘリンおよびαカテニンの発現がみられたが、内エナメル上皮での発現は弱かった。エナメル上皮腫においては、濾胞型・叢状型ともに、基底膜に接する部位を除く細胞膜領域にE-カドヘリンおよびαカテニンの発現がみられた。いずれも、胞巣周辺の円柱状細胞よりも胞巣中央の多角形細胞で発現は強かった。またメラノサイトの出現がみられ色素沈着をともなうエナメル上皮腫では、E-カドヘリンおよびαカテニンの発現は減弱していた。歯原性淡明細胞腫においては、基底膜に接する部位を除く細胞膜領域に一様に明瞭なE-カドヘリンおよびαカテニンの発現がみられた。
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