MMP-8は、好中球にのみ存在するコラゲナーゼであると考えられてきたが、近年、正常及び炎症歯肉においてその遺伝子発現が報告されている。本研究では、正常ヒト歯肉線維芽細胞培養系を確立し、線維芽細胞におけるMMP-8遺伝子発現の検討と炎症の惹起に最も重要な役割を演じるインターロイキン1β(IL-1β)のMMP-8遺伝子発現におよぼす影響について検討を行った。まず、全身的に健康と診断された人の歯肉から組織を採取し、この歯肉組織片の線維芽細胞を培養した。次に、IL-1β及びタンパク質合成阻害剤(シクロヘキシミド)を正常ヒト歯肉線維芽細胞に作用させ、これらの細胞からmRNAを抽出し、RT-PCR/サザンブロット解析によりMMP-8遺伝子発現を検討した。その結果、培養線維芽細胞においてMMP-8mRNAが確認され、この細胞にIL-1βを作用させるとMMP-8mRNAは用量依存的に増加し、100pg/ml以上の濃度でコントロールに対し有意に上昇した。また、IL-1β(1000pg/ml)添加後12時間でMMP-8mRNA発現量は最大となり、48時間まで緩やかな減少傾向を示した。一方、シクロヘキシミド(10μg/ml)で前処理すると、IL-1β(1000pg/ml)によるMMP-8遺伝子発現の促進効果は完全に消失した。以上の結果より、LPSなどのエンドトキシンにより活性化されたマクロファージは炎症性サイトカインであるIL-1βの産生分泌を高め、IL-1βは好中球や線維芽細胞などに作用し、MMP-8の遺伝子転写及び合成を促進することが示された。成人性歯周炎の発症と進行はこのようは機序で一部は行われていると考えられる。
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