研究概要 |
研究代表者は正常及び炎症歯肉におけるMMP-1、MMP-8及びTIMP-1の遺伝子発現量を検討し、MMP-1 mRNA発現量は炎症歯肉で著明に上昇し、一方、MMP-8及びTIMP-1の遺伝子発現量は炎症による影響が認められないことを明らかにした(Eur.J.Oral Sci.,vol.104,pp562-569,1996)。ところで、成人性歯周炎における歯肉破壊にはMMP-8が関与しているといわれている。そこで、本研究では正常ヒト歯肉線維芽細胞培養系を確立し、線維芽細胞におけるMMP-8遺伝子発現の検討、及び炎症の惹起に最も重要な役割を演じるサイト力インであるインターロイキン1β(IL-1β)のMMP-8遺伝子発現に及ぼす影響について検討した。 歯肉組織サンプルは全身的に健康と診断された人の歯肉から採取した。この歯肉組織片の線維芽細胞を培養し、細胞からmRNAを抽出後、RT-PCR/サザンブロット解析によりmRNA量を測定した。その結果、培養線維芽細胞でMMP-8遺伝子発現が確認され、IL-1βによりMMP-8mRNAは用量依存的に促進し、100pg/ml以上で有意に上昇した。また、IL-1β(1000pg/ml)を添加して12時間後にMMP-8遺伝子発現量は最大となり、その後48時間まで緩やかな減少傾向を示した。タンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシミド(10ug/ml)で前処理すると、IL-1β(1000pg/ml)によるMMP-8 mRNA発現の促進は完全に消失した。 以上の結果より、LPSなどのエンドトキシンにより活性化されたマクロファージは炎症性サイトカインであるIL-1βの産生分泌を高め、IL-1βは好中球や線維芽細胞などに作用しMMP-8の遺伝子転写を促進させると考えられる。おそらく、成人性歯周炎の一部はこのような機序で発症し、進行していくと思われる。
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