歯髄における炎症時の病態を解明するためには、従来、別個に検索が行われてきた神経系および免疫系シグナルネットワークの相互関与をあきらかにすることが必要である。今年度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてニューロトランスミッターの測定系を確立し、比較的入手が容易な新鮮ウシ抜去歯中の歯髄内神経伝達物質の測定を行った。HPLCは複数のニューロトランスミッターを同時に定量的かつ特異的に測定することが可能であり、歯髄のような微少なサンプルに対して複数物質の測定をするのに有利である。分析系は添加剤として6mMのHClを加えた水とアセトニトリルの2液グラディエントを用いた。溶液Aは100%の水、溶液Bは60%のアセトニトリルとし、20%Bから30分で60%Bにグラディエントを行った。新鮮ウシ抜去歯は抜去後氷中に保存運搬し、その後実験に供試するまで-80°Cで凍結保存した。歯髄中の神経ペプチドはアセトン抽出を行い回収した。標準物質を用いてリテンションタイムとピークの分離度の調整を行った後、既知濃度の標準液を用いて較正曲線を得、試料中のブラジキニン(BK)とサブスタンスP (SP)の濃度を求めた。新鮮ウシ抜去歯歯髄中のBKおよびSPの量はそれぞれ9.8 (ng/mg of pulp)、113.8 (ng/mg of pulp)であった。今後は歯髄細胞の培養を行い、培養歯髄細胞中に歯髄から測定されたものと同レベルのニューロトランスミッターが存在するか否かを検索し、さらにこの培養系に起炎性刺激を加えたときの変化を神経伝達物質および免疫伝達関与物質の両方向から調査する予定である。
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