研究概要 |
これまでにヒト歯肉から上皮細胞を単離・培養することに成功した。しかしながら同細胞の継代培養を試みたが5代程度の継代数で増殖が停止してしまうことがわかり、研究に供試するために長期継代培養可能な細胞をSV40Tantigen遺伝子を導入することにより作成することを試みた。その結果、2系統の長期継代培養可能な細胞を確立した。このうちの1つ(OBA-9)を本研究に供試した。このOBA-9はkeratine,involucrinなどの発現等から上皮細胞の形質を保持していることが確認できた。これらの細胞を凍結保存するために液体窒素細胞保存容器を使用している。一方、培養細胞の刺激物質として、Porphyromonas gingivalisより超音波破砕画分(SE)、線毛蛋白ならびにリポ多糖を抽出、精製した。さらにEscherichia coliリポ多糖、IL-1β、TNFαなどを刺激物質として用いた。これら刺激物質をOBA-9ならびにSV40Tantigen遺伝子を導入していないヒト歯肉上皮細胞培養液中に添加し、種々の条件でこれらの細胞を刺激した。その結果、OBA-9においてIL-8ならびにMCP-1 mRNAが種々の刺激因子のうちP.gingivalisSE刺激で著名に増加することがわかった。さらに蛋白質レベルでも培養上清中のこれらのケモカインの産生量はmRNAと同様にP.gingivalisSEによる刺激で著しく増加した。一方、IL-1α,IL-1β,TNFα,IL-6等の炎症性サイトカインはP.gingivalisSEの刺激でほとんどその産生増加は認められない、もしくは非常に弱かった。この結果は、SV40Tantigen遺伝子を導入していないヒト歯肉上皮細胞でも再現が得られた。このように、in vitroでは歯周病原性細菌の刺激によりIL-8,MCP-1のケモカインが選択的に産生された。これらの結果は歯周炎病巣での炎症細胞浸潤に歯肉上皮層がケモカインの産生を介して関与している可能性が示唆された。
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