本研究では象牙質を露出させた歯根部試片を、齲蝕関連細菌を用いたin vitroの純培養あるいは混合培養系に供し、歯根部象牙質齲蝕誘発モデルを作製した。そして、試片から得た光学顕微鏡用連続切片に過沃素酸-チオカルボヒドラジド-蛋白銀-物理現像法染色(以下PA‐TCH‐SP‐PD法染色)あるいは特異抗体を用いた酵素抗体法染色を行い、その染色像を三次元的に再構築することで、試片表層のプラークの堆積状態あるいは象牙質内への細菌の侵入状況を立体的に解析した結果、以下の所見を得た。1.Streptococcus mutansの純培養およびActinomyces viscosusあるいはLactobacillus caseiとの混合培養に供した象牙質試片においては、その表層に50〜200μmの厚さのプラークが堆積し、また象牙細管内へ様々な深度で細菌の侵入が認められた。しかしながら、細管へ侵入した細菌種およぴ侵入深度は細管毎に異なり、培養に用いた細菌の組合せの差異による特異な傾向は認められなかった。2.A.viscosusあるいはL.casei各々の純培養に供した試片の表層プラークの厚さはS.mutansのそれに比して有意に小さく、また象牙細管内への侵入はほとんど認められなかった。3.S.mutansおよびL.caseiの混合培養に供した試片表層のプラーク内を立体視すると、L.caseiのプラークが多数のS.mutansの集落を包含するような形で存在していた。4.A.viscosusおよびL.caseiの混合培養においては、試片の象牙細管に主にL.caseiが侵入しており、特に細管の表層部では拡張傾向が認められた。5.いずれの培養系においても試片の象牙細管内に侵入した細菌の大多数はPA‐TCH‐SP‐PD法染色において陽性反応を呈した。
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