歯髄細胞の機能面を解明するためには、動的現象をとらえる必要がある。そこで、パッチクランプ法を用い、一個の培養ヒト歯髄細胞の基本的な電気生理学的膜特性を調べた。パッチクランプ法には、継代2-6代目の歯髄細胞を用いた。培養された細胞をトリプシン含有のリン酸緩衝液で細胞を剥離後、35mmシャーレ内の滅菌カバーグラス上に1×10^4個を播種し、5%CO_2の条件下で24時間以上培養した後カバーグラス上に吸着したものを実験に用いた。倒立顕微鏡上の正常リンガー液で満たされたチャンバー内に細胞が吸着したカバーグラスごと移した。顕微鏡下で通常のK^+-電極内液で満たしたパッチ電極を歯髄細胞に接触させホールセル状態とした。電圧ステップまたはランプ電位変化を電圧固定化した細胞に与え、それによって誘発される電流値を検出、増幅後、パソコン内のハードディスクに記録した。本年度は、発生する電流を解析し、歯髄細胞の有するイオンチャネルを検討した。また、K^+チャネルの阻害剤であるBa^<2+>の歯髄細胞膜特性に対する効果についても調べた。 パッチ電極でホールセル状態にした歯髄細胞の表面を10mM Ba溶液で潅流し細胞を刺激したとき、3種類の細胞応答パターンが得られた。第1はBa^<2+>によって漏洩電流が増強されるタイプ、第2は外向き電流がBa^<2+>によって抑制されるタイプ、第3は0mV付近にピークを持つ内向き電流を発生するタイプの3種類であった。第1のタイプでは、逆転電位が0mV付近にあり、カチオンチャネルまたはCl^-チャネルの可能性がある。第2のタイプでは、ランプ電位変化で生じた電流が外向き整流性の電流を抑制することからK^+チャネルの存在の可能性がある。第3のタイプでは、0mV付近にピークを持つ電流の発生パタンからL型-Ca^<2+>チャネルの存在の可能性が考えられた。
|