本研究では、排膿の止まらない難治性根尖性歯周炎の病態を把握する目的で、炎症性細胞による一酸化窒素(Nitric Oxide:NO)合成能に関する病理組織学的、分子生物学的検討を行うことを計画した。また、NO合成阻害剤のin vitroにおけるNO合成の抑制効果を比較することで、治療薬としての臨床応用を検討する予定である。今年度は、難治性根性歯周炎患者から採取した根管滲出液および歯根嚢胞と診断された患者の根尖部病巣組織を試料とし、一酸化窒素(Nitric Oxide:NO)の産生および誘導型NO合成酵素(inducible NO synthase:iNOS)タンパクの産生ならびに同遺伝子発現を検索したところ、以下の結果を得た。 1.難治性根尖性歯周炎患者20名から採取した根管滲出液を試料とし、通法に従いnitrite(NO_2^-)の定量を行ったところ、0.44〜6.54μMで平均4.84μMであった。 2.根管滲出液内多形核白血球(PE-PMNs)に対し、抗ヒトiNOS抗体を用いた免疫染色法を行ったところ、全症例でiNOSの産生を検出した。 3.このPE-PMNsからRNAを抽出し、ヒトiNOS特異的プライマーを用いたRT-PCR法を行ったところ、iNOSmRNAの遺伝子発現を検出し、インターナルプローブを用いたSouthern hybridization法で同遺伝子発現の特異性を確認した。 4.外科的に摘出した根尖部病巣組織のパラフィン切片をヘマトキシリン-エオジン重染色したところ、29症例中20例が歯根嚢胞で、9例が歯根肉芽腫であった。 5.歯根嚢胞(上記20例)の凍結切片を免疫染色した結果、炎症性細胞のiNOS産生を検出し、特に血管周囲に著名な局在が観察された。
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