研究概要 |
歯科では20種以上の金属元素が使用されているが,金属アレルギーのように,微量でも生体への影響が発現する可能性が報告されてきている。また口腔内に装着されている金属製の補綴修復物や矯正装置等は,唾液や食渣などによって腐蝕性変化を生じ,極微量の金属成分を溶出し,その一部は生体内に取り込まれることがわかってきた。そのため従来生体にとってほぼ無為害性とされてきた合金についても注意を払う必要が出てきている。研究代表者の講座では,本年度より細胞生物学実験室を新たに設備し,本格的な実験を行う前段階として機器の条件設定や手技の安定を優先項目として研究を行った。そして細胞内に取り込まれたニッケルの障害度は細胞種により差があることが判明した。 そこで生体における組織の違いによる金属の影響をシミュレートするために,数種のヒト組織由来の培養細胞を用いて,金属の取り込みの違いについて比較検討した。細胞増殖を阻害しない濃度で塩化ニッケルを投与するために,それぞれの培養細胞における至適投与濃度を決め,増殖抑制が現れない塩化ニッケルの濃度を明らかにした。次にその濃度で塩化ニッケルをそれぞれの培養細胞に投与して72時間まで培養し,細胞内のニッケル量を測定したところ,単位細胞あたりの取り込み量も細胞種によって異なるという結果を得た。異なる組織由来の培養細胞内の金属含量の違いは,そのもとになる組織の金属感受性や為害性の発現の差を示唆するデータとなると考えられる。 本研究は,金属の組織為害性に着目した上で細胞内の金属含量を測定することにより,組織障害および生体への影響の機序を明らかにするための基礎的な研究として成果をあげた。次年度はこれらの結果を基に,口腔内の初代培養細胞について実験を行い,データの蓄積および解析を行う予定である。
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