研究概要 |
歯科では20種以上の金属元素が使用されているが,金属アレルギーのように,微量でも生体への影響が発現する可能性が報告されてきている。また口腔内に装着されている金属製の補綴修復物や矯正装置等は,唾液や食渣などによって腐蝕性変化を生じ,極微量の金属成分を溶出し、その一部は生体内に取り込まれることがわかってきた。そのため従来生体にとってほぼ無為害性とされてきた合金についても注意を払う必要が出てきている。本科学研究費補助金による助成を受け,研究代表者の講座では,前年度より細胞生物学実験室を新たに設備し,機器の条件設定や手技の安定を優先項目とすると同時に,生体における組織の違いによる金属の影響をシミュレートするために,上皮細胞,線維芽細胞,骨芽細胞由来の培養細胞を用い,細胞増殖を阻害しない数種の金属イオン(Ni,Cr,Co,Cd,Ti)の至適投与濃度を決め,増殖抑制が現れない金属塩化物の濃度を明らかにした上で,金属イオン取り込みの違いについても比較検討した。その結果,細胞内に取り込まれた各種金属イオンによる障害度は,細胞種により同じ濃度でも差があることやコバルトなど金属種によってはアポトーシス様の変化が現れることも判明した。特に塩化ニッケルについて,細胞内のニッケル量を測定したところ,単位細胞あたりの取り込み量も細胞種によって異なるという結果を得た。異なる組織由来の培養細胞内の金属含量の違いは,そのもとになる組織の金属感受性や為害性の発現の差を示唆するデータとなると考えられる。本研究は,金属の組織為害性に着目した上で,細胞内の金属含量を測定することにより,組織障害および生体への影響の機序を明らかにするための基礎的な研究として成果をあげた。今後は,これらの結果を基に,各種組織の初代培養細胞について実験を行い,データの蓄積および解析を行う予定である。
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