本研究計画を通じて、ウシ胎児下顎骨由来細胞多層培養系を用いた生体材料の評価系を作製することができた。すなわち従来、細胞培養用プラスティック上での培養条件において、上記多層細胞培養系は時間的に適切な培地への成長因子添加によって、骨芽細胞様の分化を示すことが示されてきた。今回はより培養条件として厳しい条件となる純チタン上で、同様な細胞の分化を生じさせる条件の検討を行った。生体材料は、細胞培養用プラスティックと異なり不透明であって、直接細胞の生育状態を観察することができないため、固定を行った上での走査電子顕微鏡による観察が不可欠であったが、適切な細胞の播種条件、初期の付着条件を決定することができた。 さらに、チタンの表面性状と骨芽細胞の分化に関しての関係を明らかにすべく、評価実験を行った。チタンに加工を施し、機械加工面、プラズマスプレー加工面、酸処理面、アルミナサンドブラスト面、ビーズサンドブラスト面を得、その上で上記細胞系を培養、骨芽細胞への分化の指標となる、アルカリフォスファターゼ、骨シアロタンパク、オステオカルシンの発現を、免疫組織化学的に検索した。その結果、従来言われてきたように材料表面の粗さと、骨芽細胞への早期分化との関連が単純なものではなく、「粗さ」という指標としては同じでも、テクスチャの違いにより異なった生体親和性を示すことが明らかになった。すなわち、プラズマスプレー加工の様な、アンダーカットのある表面や、凹凸はあるものの全体として滑沢なビーズサンドブラスト面では、他の加工法に比べ骨芽細胞への分化が遅れてしまうことが判明した。以上、本法は最適な表面加工法を得るための有効なスクリーニングテストとなりうることが明らかとなった。
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