研究概要 |
咀嚼時に口腔内に取り込まれた食物は上下顎の歯により圧縮,粉砕を受け,唾液と混和され嚥下に至る.そこで,下顎機能運動時の上下顎歯の対合関係を測定し,機能時の上下顎咬合面間の接触と離解の様相を3次元的に把握し,咬合面形態が食物の粉砕と流れにどのように関与しているかを明らかにし,咬合面形態の機能的意義を追求することを目的とした.今回は特にこれまでに分析の行われていなかった下顎臼歯に関して検討を行った. 歯に極度な咬耗や修復物の存在しない,咬合関係が正常な成人8名の咬合面形状データをコンピュータ上で処理解析を行った.同時に各被験者の下顎運動も測定し,下顎が咬頭嵌合位,1mm側方位,2mm側方位にあるときの上下顎歯間の距離を算出し,カラーマップを用いて表示,観察を行った.その結果,下顎臼歯上において特徴ある傾向が認められた.下顎第一大臼歯では遠心咬頭から中心窩にかけての部分が,また下顎第2小臼歯では頬側咬頭三角隆線から遠心小窩にかけての部分に下顎側方位において空間が形成され,咬頭嵌合位においてはその空間が消失していた.上顎においても側方位において同様の空間,すなわち圧搾空間が形成されることと考え合わせると,正常な咬合関係を有する天然歯では第一大臼歯と第2小臼歯において食物の粉砕,圧搾を行うと同時に,食物を舌側へと移動させ,食塊の形成を合理的に行い得る機構を有していることが示唆された.
|