今回の研究は、嚥下ならびに発音活動に重要な鼻咽腔閉鎖機能の調節機構に、体位の変化がどのような影響を与えるかを明らかにし、鼻咽腔閉鎖機能賦活のための新たな治療法に示唆を与えることが目的である。そのため、被験者の体位を変化させた際の嚥下ならびに発音時の鼻咽腔閉鎖機能を、鼻咽腔閉鎖の主たる筋である口蓋帆挙筋活動を指標にして検討を行った。 まず、すでに保有していたポリグラフ装置に被験者の体位の角度を測定可能となるように、角度トランスデューサ、角度アンプを付加し、新たな実験装置を構成した。この実験装置を用いて、音声信号ならびに口蓋帆挙筋筋電図原波形・積分波形、口腔内圧の測定を同時に行った。被験対象としては、健常者ならびに鼻咽腔閉鎖不全症を呈しスピーチエイドの装着が必要な症例とした。 実験の測定結果を、今回導入したコンピュータを用いたデータ解析装置によって分析を行った。その結果、健常者では頭部を正面を向かせたときあるいは頭部を前屈させ頚部を弛緩させたときと比較して、頭部を後屈させ頚部を伸展させたときには、口蓋帆挙筋筋電図積分値は有意に高い値を示した。このことは、頭部を後屈させ頚部を伸展した状態では鼻咽腔閉鎖のためにより高い筋活動が必要であることを示唆している。一方、鼻咽腔閉鎖不全症例においても健常者と同様な結果が得られた。 以上の結果から、健常者において頭部を後屈させ頚部を伸展させた姿勢では鼻咽腔閉鎖が困難であることが示唆された。特に、鼻咽腔閉鎖不全症を呈する症例の場合には、鼻咽腔の完全閉鎖を必要とする運動(発音・嚥下)の賦活治療に対して、頭部を後屈させない姿勢の望まれることが示唆された。
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