蛋白質の分離精製に広く用いられるハイドロキシアパタイトは歯質の硬組織の主成分である。しかし蛋白質との相互作用部位などについてはこれまで明らかにされていなかった。今年度、蛋白質に唾液中にも含まれ抗菌性を有するリゾチームを選択し、ハイドロキシアパタイトとの吸着平衡実験でラングミュア吸着等温式より吸着親和力と吸着基数を求め、その結果とハイドロキシアパタイト表面をリン酸リッチにしたサンプルの結果を比較すると吸着基数は変わらなかったが、吸着親和力は約3倍となった。このことはリゾチームの正電荷(アミド基)とハイドロキシアパタイトの負電荷(リン酸基)が吸着に関与していることを示している。またハイドロキシアパタイトに吸着したリゾチームは活性部位をフリーの状態にしており、抗菌性を保った状態で吸着していることも解った。 一方、リゾチームなど塩基性蛋白質の分離精製に用いられるイオン交換樹脂を吸着剤に選択した吸着平衡実験および吸着状態での水素-重水素交換と核磁気共鳴装置ではリゾチームの吸着様式がハイドロキシアパタイトの場合とはまったく違かった。その吸着力は非常に強かったが、吸着部位は特定できなかった。つまり表面全体でのマルチサイト吸着であったといえる。今回実験に使用したイオン交換樹脂は塩基性蛋白質用であり、そのカルボキシル基を利用しリゾチームのアミド基に吸着していることは解っている。本年度の実験で効率よく吸着するためにリゾチーム表面に存在するどのアミド基にでも吸着できることが解った。
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