象牙質のI型コラーゲンと接着剤高分子成分であるポリアクリル酸の相互作用に関する基礎的知見を得るにあたり、コラーゲンには水溶性のウシ皮膚コラーゲン(I型)を用いた。このコラーゲンは酸性でのみ可溶であるが、より広いpH範囲で両高分子の相互作用を調べる必要があるため、その塩基性残基が正電荷を持つ高pHで無水コハク酸を作用させて、酸性から中性にわたって可溶であるコハク酸化したコラーゲンを得た。等電点等の基本物性については現在調査中である。 グラスアイオノマーセメントではポリアクリル酸がカルシウムイオン等によって架橋することで硬化が進行するが、この反応が定量的であればカルシウムイオン滴定によりポリアクリル酸を定量することが可能である。そこでイオンメータと自動ビュレットを組み合わせた自動滴定装置を製作し、コラーゲン共存下で遊離のポリアクリル酸を逆定量して、これからコラーゲンに結合したポリアクリル酸の量を見積もることを試みた。その結果、コハク酸化したコラーゲンに対してはカルシウムイオンはほとんど結合しないこと、酸性条件下でコラーゲンと共存するとき明らかに遊離ポリアクリル酸量が減少しコラーゲンとの結合が示唆されること、両高分子の濃度の組み合わせによってはある濃度以上でゲル状の不溶物が現れることなどの知見が得られた。 この系について次年度引き続き、pHも含めて系統的に条件を変えて滴定を行い定量的な解析を行うこと、DSCやCDなどの方法によりポリアクリル酸との相互作用に伴うコラーゲンの状態変化を調べることなどを予定している。
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