本研究では研削した牛象牙質を被着体として用い、表面処理剤の組成を変えることによって象牙質に対するレジンの接着性を改善することを目的に実験を行った。象牙質表面に試作したセルフエッチングプライマーを塗布し、メタクリル酸メチルをトリブチルボラン重合開始剤で重合させるレジンでチタンやステンレスと接着し、水中浸漬24時間後の引張り接着試験と破断面の観察を行った。また象牙質側の接着を検討するために、金属側の界面で接着が破壊しないよう補助的な実験もあわせて行った。 セルフエッチングプライマーに重合促進作用の期待できる金属塩化物を添加し、その種類と濃度が接着強さに及ぼす影響を調べた。前回までの報告では、塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩化第二銅、過塩素酸鉄の効果を明らかにした。本研究ではセルフエッチングプライマーの成分としては検討していなかった塩化亜鉛、塩化すず、塩化アルミニウム、塩化セリウム、塩化コバルトを試した。その結果、鉄の塩化物を使用した場合に最も接着強度が高くなることが結論づけられ、これらの研究成果の一部を原著論文として投稿中である。さらに、鉄は水溶液とした場合の保存安定性がプライマーとして用いる場合の課題の一つであったが、これに関しても本研究がきっかけとなり、イソシアネート基を持ったモノマーを併用したり、ある種の化学物質で鉄を保護することにより改善できる可能性を見い出すことができた。
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