顎顔面補綴治療の一環として、顔面部の実質欠損や変形に対して、エピテーゼが適用される。その製作行程において、エピテーゼ材料であるシリコーン樹脂の色調を顔面皮膚色に調和させる術式は、現状ではほとんど術者の感覚のみに頼ったものであり、相当な熟練を要するものである。我々はエピテーゼ専用の効果的な材料や有用なシェードガイドの基礎色等について検討しているが、今回はそれらの基礎データとして、日本人の若年健常者の顔面皮膚色を非接触型分光測色計にて測定し、性別・部位別等について比較検討を行った。 被験者は、本学歯学部学生および附属病院衛生士とした。測定部位は顔面皮膚の4点(前額面中央部、左側眼窩部、左側頬部中央部、鼻尖部)とし、暗室内で非接触型の分光測色計(フォトリサーチ社製:PR-650)を用いて測定した。光源にはケンコー社製のTECHNO LIGHTを使用し、標準白色板により各被験者ごとの較正を行った。測定値としては、国際照明委員会(CIE)にて制定され、現在最も一般的なL*a*b*表色系にて、明度(L*)、クロマティクネス指数(a*、b*)、および彩度(C*)を測定し、性別、部位別、の平均値を用い、それぞれの条件間での色差(△E*ab)を求めた。 L*、a*、b*、を各部位間で多重比較したところ、男性のL*値、a*値は眼窩部-鼻尖部を除いた部位で1%の危険率で有意差を認め、b*値は前額面-鼻尖部、眼窩部-頬部を除いた部位において1%の危険率で有意差を認めた。女性については、L*値は前額面-頬部を除いた部位で1%の危険率で有意差を認め、a*値は頬部-鼻尖部を除いた部位において1%の危険率で有意差を認めた。b*値はすべての部位間で有意差が認められなかった。顔面皮膚4点の部位別の皮膚色の差は、許容色差の分類で3級〜5級となり、いずれも色差が大きいことが認められた。
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