研究概要 |
平成9年度より引き続き、平成10年度では歯胚の三次元的観察を中心に研究を進めた。[研究方法]上顎切歯の歯胚が形態的に観察されるようになる胎齢12日〜新生仔の片側性唇裂・唇顎裂の個体をホルマリン固定後、Acrylamide樹脂に包埋した。包埋ブロックには基準面として鼻尖より頭蓋正中に向かう頭部の正中線に対して平行な2平面(矢状断平面、水平断平面)を作り、それらに垂直な厚さ10μmの前頭断連続切片を作製し、H-E染色を施した。新たに購入した備品を用いて組織像の三次元再構築を行い、各発生段階における歯胚の形態について三次元的に観察した。[研究結果](1)胎齢12日〜13日:非破裂側の歯胚は内側鼻突起と上顎突起の癒合部後端に認められた。破裂側の歯胚は顎裂により分断され、正中破裂縁に位置しており、非破裂側に比べ丸味を帯びた扁平な形態を呈していた。(2)胎齢13〜16日:歯胚は蕾状〜帽状期にあり、非破裂側に比べ破裂側の歯胚は上顎突起方向への成長が不良で、形態異常がより明瞭となっていた。(3)胎齢16日〜新生仔:非破裂側の歯胚は前後的に長く、上顎骨内を後外上方に向かい伸長していた。一方、破裂側の歯胚は短く上下的に圧平され、破裂縁に沿って後内下方に伸びていた。[考察およびまとめ]顎裂に隣接して認められる破裂側の歯胚は、形成初期より非破裂側と形態が異なり、早期から歯胚の発育が障害されていると考えられた。また、歯胚の発育が進むにつれてその形態異常が著明となり、歯胚の後外上方への伸長が破裂に制限されている事から、顎裂の存在による歯胚の発育の場の不足が形態形成の異常に関与していると考えられた。以上より、顎裂に隣接した歯胚では発生初期より発育障害が認められ、顎裂の存在が歯胚の形態形成に影響していることは明らかであり、二次元的観察結果を裏付ける所見であった。尚、本研究の要旨は第52回日本口腔科学会総会(平成10年4月16,17日、松山市)にて発表した。
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