9年度は、抗癌剤の単剤投与における局所腫瘍の増殖および浸潤に対する効果とリンパ節転移に対する効果について正所姓移植モデルを使用し検討した。本研究においては以前の報告において最も高浸潤・高転移性を示したOSC-19細胞を用いて、ヌードマウスの舌に正所性移植し、口腔癌剤投与後に組織切片を作成し浸潤および転移に対する影響を観察した。実験に使用した抗癌剤は臨床において頻用されるシスプラチン(CDDP)とペプロマイシン(PEP)で、投与量についてはヌードマウスのCED値であるそれぞれ7mg/kgと32mg/kgとした。抗癌剤投与の時期は腫瘍の移植後7日目(生着後腫瘍が増殖し始める時期)と14日目(腫瘍が深部へ増殖・浸潤する時期)とし、全て移植後21日目に屠殺し移植腫瘍と頚部リンパ節の組織標本を作成した。その結果、増殖細胞核抗原(PCNA)陽性細胞率は対照群では33.7%であったのに対して、抗癌剤投与群では25.4%〜28.4%と有意に低下し、化学療法による増殖抑制効果が認められた。また、対照群の腫瘍は浸潤様式4C型を呈していたが抗癌剤投与群では浸潤様式3型を示すものが多く、浸潤程度の低下がみられた。さらに、対照群の頚部リンパ節転移形成率は90.9%であったのに対して7日目投与群では45.5%と有意に低下し、早期の抗癌剤投与でリンパ節転移を抑制した。以上の結果より、抗癌剤の投与時期によっては癌の増殖・浸潤・転移を抗癌剤が抑制することが示唆された。今後は、抗腫瘍効果の原発巣と転移巣の比較や今回の2剤の併用による効果などの検討を行う予定である。
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