歯はエナメル上皮と歯乳頭細胞との上皮-間葉間相互作用により細胞・組織の分化が誘導され、その複雑な形態が形成される。この過程において歯乳頭の細胞は、象牙芽細胞や線維芽細胞へと分化する。このことからヒト歯胚由来細胞の性状を明らかにすることは歯胚の増殖・分化機構を含め歯の形態形成や発生のメカニズムの解明の一助になるものと考えられる。われわれはすでにヒト歯胚由来細胞を分離し、その性状について解析を進めている。そして現在までにこの細胞は、形態的には線維芽細胞様を呈し、アルカリ性ホスファターゼ(ALP)活性を有していることや、5mMβ-グリセロリン酸および50μg/mlアスコルビン酸存在下においてのみvon Kossa陽性の石灰化組繊が形成されることなどを明らかにしている。本年度は、この細胞の綱胞外マトリックスに関連した遺伝子や増殖・分化に関与していると考えられている受容体型チロシンキナーゼ遺伝子の発現についてReverse Transcription-Polynerase Chain Reaction法にて検討した。その結果、本細胞はタイプIコラーゲン、タイプIIIコラーゲン、オステオボンチン、オステオネクチンおよびALPmRNAの発現が認められた。また、EGFレセプター、PDGFレセプター(β)、FGFレセプター1、FGFレセプター2およびHGFレセプブターなどの受容体型チロシンキナーゼのmRNAの発現も認められた。以上のことからヒト歯胚由来細胞は、In vitroにおける歯乳頭細胞の増殖・分化機構の解明に有用な材料になるものと考えられた。今後は、これらのレセプターのリガンドによる細胞増殖やALP活性などへの影響および細胞外マトリックスに関連した遺伝子発現の変化などについて解析を進めたいと考えている。
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