顎骨切除後の実質欠損に対し、顎補綴物が装着された患者の口腔機能評価として、嚥下機能の評価を嚥下X線透視(ビデオ)による方法を用いて評価した。本年度は正常人における嚥下動態の把握を中心に行い、さらに上顎欠損症例における顎補綴装着前後の嚥下機能を比較した。X線透視(ビデオ)による評価方法は、造影剤(硫酸バリウム)を一定量(10ml)口腔内に停帯させ指示により嚥下をさせた。このときの側面からの透視画像をビデオに記録し、再生画像にて造影剤口腔内保留状態、口唇閉鎖、舌運動、舌軟口蓋閉鎖、軟口蓋運動、舌根運動、舌骨運動を観察記録し、さらに造影剤の口腔内残留状態および嚥下の一相から二相にいたるいわゆる口腔期における口腔内内移動時間を計測した(時間計測はビデオ装置に接続したビデオタイマーにより1000分の1秒まで計測する)。その結果、正常人(顎機能に異常を有さない正常有歯顎者)5人の観察において上記項目の正常運動を充分に把握した。口腔内移動時間は平均1.565秒であった。一方、上顎欠損症例5例における観察では、顎補綴物未装着状態では、欠損が大きくなるほど造影剤の口腔内保持が難しく、下顎を挙上させ一気に咽頭部に流し込む状態が観察された。口腔内移動時間は平均3.583秒であった。顎補綴物装着時は造影剤口腔内保留状態は良好であったが、補綴物の適合状態によっては造影剤の漏洩がみられ、やや粘調性の造影剤が義歯表面に吸着し舌運動が頻回になる症例も認められた。口腔内移動時間は平均3.234秒であった。 今後は、舌口底癌による口腔組織欠損症例における検討および造影剤の量による変化、嚥下物の形態や性状による変化についても検討する必要があると思われる。
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