当教室では、ヒト下顎骨に生じた骨肉腫をヌードマウスに移植することに成功し、現在も継代・維持している。この移植腫瘍は包巣状に発育し、組織学的には、移植1カ月後は未分化な間様系細胞様細胞が、2カ月後に軟骨細胞様細胞が出現し、3カ月後には、腫瘍中心部に軟骨様組織の形成が著明になる。これらの所見は成長軟骨の分化過程に非常に類似しており、この移植腫瘍は、ヒト軟骨の初期石灰化機構を研究するうえで極めて有用なモデルとなり得ると考えられる。 近年、骨基質タンパクの産生と石灰化機構との関連が明らかになってきた。骨基質タンパクのいくつかは、in vitroの系で石灰化と密接な関係があると言われている。しかし、in vivoの系で今までそのような報告は認められていない。それは良い実験モデルがなかったことに起因している。そこで今回、in vivoの系でこの腫瘍の石灰化と特に石灰化と関連深いと言われているオステオポンチンの局在について経時的に免疫組織化学的検討し、加えてm-RNAの発現をin situ hybridization法を用いて検索した。その結果、移植1カ月後の腫瘍にはオステオポンチンとそのm-RNAの局在は認められなかった。移植2カ月後の軟骨細胞様細胞には、弱いオステオポンチンの局在とそのm-RNAの発現が認められた。また、移植3カ月後の肥大化した軟骨細胞様細胞に強いオステオポンチンの局在とそのm-RNAの発現が認められた。これらの所見は、以前当教室で検索したタイプXコラーゲンとそのm-RNAの発現に類似していた。したがって、オステオポンチンは、ヒト軟骨の石灰化と密接な関係があると思われた。平成10年度は、引き続きこの移植腫瘍におけるバイグリカンの局在とそのm-RNAの発現について検討していく予定である。
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