研究概要 |
摂食行動は栄養摂取上の問題だけでなく生きるうえでの基本的欲求の一つであり,特に高齢者にとっては食事の楽しみという観点からもQOLの実現に,歯・口腔の健康保持が重要である.唾液は,消化,潤滑・緩衝作用などをもつが,一方,種々の成長因子・抗菌物質が存在し,う蝕・歯周病をはじめとする歯科疾患に対する生体防御機構として重要な役割を果たしている.老化に伴う成長因子・抗菌物質の分泌量の低下により,外傷・感染などの慢性的侵襲に対する防御能が低下すると考えられるが詳細には解明されていない.成長因子としてEGF,NGF,IGFなどの存在が知られており,恒常性の維持や損傷の修復に関与すると言われている.しかしながら加齢に伴うこれら成長因子の変化については不明な点が多い.本研究は加齢に伴うSAM顎下腺におけるIGF-1の変化を分子生物学的および免疫組織学的に検討した.〈方法〉SAMP1とAKR/Jマウス1・5・9ヶ月齢の顎下腺を摘出し、totalRNA抽出とホモジナイズsample調製およびホルマリン固定を行った。totalRNA抽出後、IGF-1のプライマーを合成しRT-PCR法にて遺伝子発現量を測定した。また,ホモジナイズsample中のIGF-1量はRIA法を用い測定した.固定後、通法に従い包埋・薄切を行い,抗IGF-1抗体を用いLSAB法にて染色を行った。〈結果および考察〉IGF-1の遺伝子発現量およびIGF-1量は、両マウスとも老化に伴い減少し,同月齢のマウスで比較するとSAMP1はAKR/Jより発現量は減少していた,また,免疫組織学的にはげっし類独特の構造であるgranuler convoluted tubule(GCT)cellのみが染色され、染色性は老化に伴い低下し,9ヶ月齢においてSAMP1はAKR/Jマウスに比べ染色性が低下していた.以上の結果から、老化に伴いIGF-1量は減少し、唾液腺や歯周組織の代謝維持が崩れ、創傷の治癒不全あるいは術後感染などを引き起こすことが示唆された。よって人工唾液開発時にIGF-1をその一成分として含めることは意味があると考えられる.
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