口唇、口蓋裂発生は遺伝因子と環境因子とがお互いに種々の程度に複合することによる多因子閾説で説明されているが、詳細は不明である。本研究では母胎環境が遺伝的要因にどの程度影響しうるかを確認するため、あるいは母胎環境に口唇、口蓋裂抵抗性を付与することにより遺伝的要因を減弱できるかを確認するために、卵巣移植・受精卵移植を行い検討する。本年度の実験では、口唇、口蓋裂に対して遺伝的傾向を持つマウスの卵巣・卵子を、口唇、口蓋裂発生に対して抵抗系の母胎に移植することにより口唇、口蓋裂の発現を観察した。 まとめ 1)A/J系マウスにおける口唇口蓋裂発生については遺伝的要因が強く関与していた。また、この遺伝的要因はC57BL/6系マウスの母胎環境によって改善することはできなかった。口蓋裂の発生についてはC57BL/6系マウスの母胎環境はA/J系マウスの口蓋裂発生に関する閾値を低下させる働きがあった。口蓋裂は遺伝的要因の関与が少ないか、あるいは母胎環境に強く支配されると考えられた。 2)A/J系マウスの持つ遺伝的要因に対して、C57BL/6系マウスの母胎環境は口唇口蓋裂発生に対して抑制的に働いていた。しかし、その母胎環境は第2世代にまで持ち越されることはなかった。したがって、口唇、口蓋裂発生には遺伝的要因・母胎環境の両者を切り離して考えることはできないと思われた。 今後、心血管系異常の発現についても観察し、口唇、口蓋裂の発生を比較検討する。また、更にすすめて人における遺伝様式と比較してみる。
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