有力な歯周病原性細菌と考えられているPorphyromonas gingivalisは、その主たる付着因子である線毛を介して特定の唾液タンパク質と強固な結合をすることにより、口腔内での定着を果たしていると考えられている。我々は、既にP.gingivalis線毛がペリクル中の主たる唾液成分であるProline-rich protein(PRP1)のカルボキシル末端部分(130-150残基;PRP-C)において特異的に結合し、口腔常在菌であるStreptococcusgordoniiのコンピテントセルにPRP-Cをコードする遺伝子を挿入したプラスミドを構築・導入・形質転換したS.gordonii菌株を作製した。また、この形質転換株を液体培地にて培養、培養液中へのPRP1フラグメントの分泌を確認している。本研究では、まず、合成PRP1フラグメントと抗PRP1フラグメントに対する抗体を用いることにより、形質転換したS.gordonii菌株培養液中のPRP1フラグメントの分泌量をELISA法により測定した。次に、培養液を用いたP.gingivalis線毛のPRP1被覆ハイドロキシアパタイトへの結合阻害実験を行った結果、60-80%の阻害効果が認められた。また、合成PRP-C及び、この培養上清を用いて、P.gingivalisとブラーク形成菌である数種の口腔レンサ球菌との共凝集抑制実験を行ったところ、44-81%の抑制効果を認めた。これらの結果は、形質転換した口腔常在菌を用いることにより、歯周病原性菌であるP.gingivalisの口腔内への初期付着と他のプラーク形成菌とのプラーク形成抑制を示唆するものである。
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