口腔保健の重要性を考えるに当たり、噛むことの生理学的意義、特に全身機能との係わりに関する新しい解釈と科学的基盤が求められている。本研究は、咀嚼時の感覚入力の変化が、日内リズム、体温調節にいかなる影響を及ぼすか、動物の食行動および体温などをリアルタイムで記録解析することにより、その期序を解明することを目的とした。麻酔下で、正常なWKA雄ラットの腹腔内に、送信器を埋め込み、術後の開腹を確認後、無麻酔無拘束下、同成分で食行動時に生じる口腔内感覚は異なると考えられる固形飼料または粉末飼料を与え、サーカディアンリズム測定箱内で摂食行動を連続記録し、摂食量、飲水量、行動量および体温変化を解析した。固形飼料と粉末飼料を与えた場合、食事誘導性熱産生による体温変化と体温変動の日内リズムに生じる変化について、比較検討を行った。1回の食事に伴う食事誘導性熱産生に関しては、固形飼料群、粉末飼料群ともに、食事開始直後より体温上昇が認められ、体温上昇量が、固形飼料群では、約0.7℃であるのに対し、粉末飼料群では、約1.6℃と高い値を示した。また、摂食開始45分後、90分後の体温は、粉末飼料群が、固形飼料群より有意に高かった、摂食量および活動量には、両群間で有意な差が認められなかった。経時的に記録した1日分の体温の温度分布状況をヒストグラム表示し、粉末飼料群の体温分布を固形飼料群と比較すると、低体温部のピークはより低く、高体温部のピークはより高いことから、体温の変動域が広いことがわかった。1日の摂食量、活動量の明暗期別の比較では、両群間に有意な差は認められなかった。以上のことから、固形飼料と粉末飼料は同一成分にもかかわらず、食事に伴う産熱反応と体温の日内変動に異なった影響を及ぼすことから、性状の違いによる咀嚼時の口腔内感覚の違いが、消化過程やその後の全身のエネルギー代謝に異なる影響を及ぼすことが示唆された。
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