研究概要 |
磁気センサを応用した変位測定システムを用いて、矯正力作用時の歯の回転中心および抵抗中心の位置を生体を対象に測定した。まず、8個のホール素子とサマリウム・コバルト磁石を組み合わせた変位センサを作製し、被験歯上の1点の変位測定を行い、回転中心位を算出した。被験歯は上顎中切歯とし、荷重は種々の水平荷重位置について、舌側方向へそれぞれ50g,100g,150gの負荷を行った。水平荷重位置は,切端から4.5mmの位置から2mm間隔で歯根方向へ8個設定した。 ブラケット位置に相当する,切端から4.5mmの位置に矯正力を負荷すると、回転中心はほぼ歯根中央部に観察された。荷重位置を根尖方向へ2mmづつ移動すると、回転中心は根尖方向へ移動し、さらには歯根側から歯冠側へ位置が逆転した。また、荷重量を大きくするにしたがって、回転中心位は歯冠側へ移動し、傾斜移動の傾向が強められることが明らかになった。 次に、多点同時計測システムを開発し、被験歯上の2点の変位測定を行い、矯正力作用時の歯の抵抗中心の位置を求めた。その結果、荷重の増加にともなって、歯の抵抗中心は歯根側へ移動することがわかった。以上より、小さい力よりも大きい力を用いた時に、歯はより傾斜移動しやすいという傾向が示唆された。歯体移動に近い歯の移動様式が望まれる場合には、小さい矯正力を適用することが推奨される。 現在、広島大学歯学部歯科矯正学講座と共同で、有限要素法を用いて歯の変位量を解析し、生体変位測定法の結果との比較を行っている。今後、両実験系を統合させることにより、より生体に近い状態での歯の移動のシミュレーション・システムを開発し、骨のリモデリングを経た経時的な歯の移動を解析したい。
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