成人の矯正治療症例においてしばしば認められる歯根周囲の過度の歯槽骨吸収に歯周組織の炎症性疾患が関与している可能性が考えられている。臨床症状として歯肉の発赤、腫脹、歯肉ポケット形成、歯槽骨の吸収などがあるがこのような反応にはアラキドン酸代謝物等の種々のケミカルメディエーターが病因となっている。そこで、我々はその中の血小板活性化因子(platelet activating factor;PAF)に着目して研究を行い、昨年度の研究により歯牙移動部歯周組織においてその値の有意な上昇を認めた。そこで本年度は組織所見との検討を目的にさらに検討を行った。 1) 麻酔下でオス成犬の両側第四小臼歯を抜去し30日間の経過観察後、片側の第一大臼歯ならびに第三小臼歯に矯正用バンドを装着し、コイルスプリングにより小臼歯の遠心移動を行い、5日後に屠殺、両側第三小臼歯近遠心歯周組織を摘出した。 2) 歯牙ならびに下顎骨は4%パラフォルムアルデヒド固定後、常温硬化樹脂テクノビット9100に包埋し未脱灰硬組織研磨標本を作製した。 3) 摘出した歯周組織より可及的に脂肪組織を除去し、1:2:0.8(v/v)の比に調整したクロロフォルム、メタノール、水の溶液に浸積し下層のクロロフォルム層を抽出した。水分蒸発後、残留物をシリカゲルの薄層クロマトグラフィーにより分離精製した。 4) 歯周組織中のPAF acetylhydorolase活性は摘出組織を0.1%BSA入りBGjb培地中でホモジュネートし、上清をオートセルマスターで14C-PAFとインキュベートして求めた。 5) 結果ならびに考察:5日間の矯正力の作用により第三小臼歯は遠心に約2mm移動していた。実験側のPAF acetylhydorolase活性はコントロール側に比較し有意に上昇していた。また摘出組織について未脱灰硬組織研磨標本を作製し骨組織形態計測を行った。実験側第三小臼歯遠心歯槽骨で有意なES/BSの値の上昇が認められた。さらにtotal bone volumeの値の低下を認めた。対照側に比較して骨吸収活性の上昇が認められたことで、歯根周囲の過度の歯槽骨吸収に歯周組織の炎症性疾患が関与している可能性が示唆された。
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