ペプチドグリカンは細菌の細胞壁の基礎構造をなす独特な化学組成と分子構造をもったヘテロポリマーであり、細菌の生命の維持に深く関わっていることが知られている。我々はPorphyromonasgingivalis(以下P.g)のペプチドグリカン合成過程に重要な酵素の一つであるmurC遺伝子の構造と機能を明らかにした。この領域は大腸菌におけるmra領域(murein synthesis cluster a)に相当することが明らかになった。これまでにこの領域に属す遺伝子群に関する報告は、大腸菌や枯草菌におけるものだけであり、P.gといった口腔内細菌に関する研究は認められない。現在までにP.gのmurC遺伝子の下流に存在する遺伝子のクローニングを行い、2つのORFがそれぞれ大腸菌のFtsQおよびFtsAに対して高いホモロジー(16%および33%)を示すことがわかった。また大腸菌FtsAでは、5つの保存モチーフを持つことが知られているが、P.gFtsAにおいても、同様のモチーフを確認することができた。さらにP.g FtsAについて性質を調べたところ、大腸菌においてP.g ftsA遺伝子を過剰発現させると、filamentationを起こし、cell growthが阻害されることが位相差顕微鏡レベルで観察された。次にftsA遺伝子の一部をプローブとしてクローニングを進めたところftsA遺伝子の下流に大腸菌ftsZと高いホモロジーを示すORFの存在することがわかった。ORF領域をPCRにて増幅し、蛋白の発現を行った結果、約50kDa蛋白の発現が確認された。さらにP.gingivalis FtsZは、大腸菌FtsZと異なるタイプのGTPase活性を有することがわかった。すなわち、1)Na^+やK^+によって活性が阻害されること、2)Mg^<2+>非存在下でも活性を有すること、3)GTPaseと同程度のATPase活性を有すること、などが明らかとなった。
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