私は以前、成人性歯周炎の病原性細菌であるporphyromonas gingivalisの線毛がフィブロネクチン(FN)結合蛋白質の一つで、本菌の線毛を介する歯周組織細胞への付着にこれが調節的役割を演じている可能性のあることを報告した。最近、唾液中の数種の蛋白質が本菌の線毛と結合し、口腔感染症を引き起こす可能性が報告された。しかし本菌線毛と成人性歯周炎患者の唾液中のFNとの相互作用や病態との関連性、唾液中のFNの機能的役割などについての詳細な知見は得られていない。ゆえに私は、成人性歯周炎患者刺激唾液中のFN量とその病態との関連性について検討した。その結果、本菌による成人性歯周炎がその唾液中FNにより調節される可能性を示唆した。ゆえに唾液中FNは本疾患においては細菌の付着や炎症に対して防御的役割を演じている可能性の知見を得た。このため今年度、唾液中の他の可溶性細胞接着因子でこのような調節作用が認められるか否か検討した。唾液は前年度と同様に本学付属病院を受診した103人の患者よりパラフィン刺激全唾液を回収し、実験試料とした。しかしながら、唾液中の数種の接着分子は歯周炎の重症度とは無関係に検出された。一方、以前の私の研究においてはICAM-1は本菌線毛レセプターと競合する可能性を報告した。この結果は患者唾液中におけるICAM-1は本菌による成人性歯周炎に対しては影響を及ぼさない可能性が考えられた。今回の研究の結果は本菌による成人性歯周炎は唾液中に存在しているFNなどの細胞接着因子により調節されている可能性が示唆された。
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