研究概要 |
本研究課題の研究目標を「ダウン症候群患者の歯肉由来線維芽細胞(HGF)を用い,細胞レベルでの老化による歯周病発症機構の解明」に集約して行われた実験の結果は以下のとおりである. 1.ゼラチンザイモグラム法によるMMP-2活性の検討 正常歯肉由来線維芽細胞(N-HGF)とダウン症候群患者歯肉由来線維芽細胞(D-HGF)にIL-1βを作用させた培養上清を試料とし,ゼラチナーゼの電気泳動パターンを解析した結果,コントロールにおいてはプロ型でD-HGFの方がN-HGFに比較して,活性値が約2倍高かった.IL-1βを作用した場合のproMMP-2でN-HGF,D-HGF共に濃度依存的に活性値の上昇が認められた.IL-1β 500pg/mlでD-HGFはN-HGFより有意に活性値が高かった.IL-1βを作用した場合のactiveMMP-2でN-HGFはほとんど変化が認められなかった.一方,D-HGFではN-HGFに比較して有意差はなかったもの濃度依存的に活性値の上昇が認められた. 2.ウエスタンブロティング法による検討 ヒト72KDaMMP-2のC末ドメインのペプチドに対するモノクロナール抗体を用いたウエスタンブロットでは分子量約72KDaのプロテアーゼが反応し,MMP-2であることが確認された. 3.sandwichELISA法による検討 D-HGFはN-HGFよりMMP-2産生を約2倍促進する傾向が認められた. 以上のことより,N-HGFと比較してD-HGFのMMP-2活性および産生量が高いことが判明した.また,炎症性サイトカインの1つであるIL-1βの作用がMMP-2活性を明らかに促進したことは,ダウン症候群患者の歯周病の早期罹患と老化による歯周病の重症化の要因の一つとなり得るのではないかと推察された.
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