研究概要 |
本研究課題の研究目標を「ダウン症候群患者の歯肉由来線維芽細胞(GF)を分子生物学的手法を用いて解析することにより老化に連関した歯周病発症機構の解明」に集約して行われた実験の結果は以下のとおりである. 1. 細胞の接着活性 ダウン症候群患者歯肉由来線維芽細胞(D-GF)と正常歯肉由来線維芽細胞(N-GF)のfibronectin(FN),vitronectin(VN),laminin(LN),typeI collagen(CLI)に対する接着活性を比較検討した.D-GFはN-GFに比べてFN,VNに対する接着活性が低下したことからダウン症候群患者の歯周組織の付着能が低下している可能性が示唆された. 2. matrix metalloproteinases(MMPs)のmRNA発現 RT-PCR法を用いてMMPsのmRNA発現量を検討した.tissue inhibitor of metalloproteinase(TIMP)-2mRNA発現量はN-GFとD-GFでは差を認められなかったMMP-2およびmembrane-type1 matrix metalloproteinase(MT1-MMP)のmRNA発現量はN-GFに比べてD-GFで有意に高かった.これらの結果からD-GFのactive-MMP-2活性がN-GFに比べ高いことにMT1-MMPの高いmRNA発現が関与している可能性が示唆された. 以上の結果を総括するとダウン症候群患者においてactive-MMP-2とMT1-MMP自身が直接FN,VNなどの細胞外マトリックスを分解していると共に,細胞内のMMP-2とTIMP-2の発現のバランスが大きく分解系に傾いており,歯周組織破壊が明らかに亢進していると考えられた。ダウン症候群患者の歯周病の早期罹患に連関した老化による歯周病の重症化のメカニズムの一つとしてこれらの知見が関連することが推察された.
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