研究概要 |
本年度においては,未だ前例のないアルキン-ジコバルトヘキサカルボニル錯体とアルコール類やアミン類のようなハードな求核剤との反応に焦点を絞り研究を行った.エーテル類やアルコール類,3級アミン類は室温下において全く反応しなかったが,1級アミン類は速やかに反応し,アルケン類の共存下ではシクロペンテノン形成反応(Pauson-Khand反応)が起こり,また,アルケン類が共存しない場合にはα,β-不飽和アミド形成反応(ヒドロカルバモイル化反応)あるいは脱錯体化反応が進行することがわかった.反応させるアミンの種類・溶媒・反応温度という微妙な反応条件の違いによって,これら3種の反応へ導かれる経路を制御することが可能であることも明確にした.シクロペンテノン形成反応は既に知られているが,研究代表者が発見したような短時間かつ定量的に反応が進行したという前例はない.さらに,本法は,ハードな求核剤との反応による遷移金属カルボニル錯体の不安定化を上手く有機合成反応に活用した最初の例といえる.また,アルキン-ジコバルトヘキサカルボニル錯体を活用した新規有機合成反応としてヒドロカルバモイル化反応を見出したことは,本研究における大きな成果の1つである.さらに,酸化剤を用いない脱錯体化反応の発見は,アルキン類の保護基として活用されている本錯体の新規脱保護手法として広範に活用されうるものである. これら反応の途中で生成するコバルト-アミン錯体は,溶媒である1,2-ジクロロエタンを還元するほどの高い還元能を持つ.この活性コバルト錯体を活用し,アルキン-ジコバルトヘキサカルボニル錯体部に隣接する炭素-ヘテロ原子間結合の還元的開裂によるアレニルあるいはアリルコバルト錯体の生成を経由した,一段階で5つの異なった炭素-炭素間結合の形成を伴う新規カスケード型反応の開発に成功した.
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