福山らはすでに、パラジウム炭素の存在下トリエチルシランによるチオールエステルのアルデヒドへの還元反応を報告している。本研究では、この反応の大量合成への適応を含めた反応条件の最適化や、チオールエステルを基質とした全く新しい反応の開発を目的としている。本年度は遷移金属触媒を用いたチオールエステルのケトンへの変換反応について検討した。 まず始めに、薗頭カップリング、Stilleカップリング、鈴木カップリング等の反応条件を参考として、種々のパラジウム触媒と求核試剤との組み合わせを試みた。その結果、チオールエステルに対して、1.5等量のエチルヨウ化亜鉛を5mol%のPdCl_2(PPh_3)_2存在下、toluene中、室温で5分間作用させることで対応するエチルケトンが91%の収率で生成することを見いだした。そこで、この反応の適応範囲を調べるために、種々の有機亜鉛試薬と様々な官能基を有するチオールエステルを合成し反応を試みた。、その結果、エチルヨウ化亜鉛の他にも、フェニル、ベンジルおよびエステルや保護されたアミンなどの官能基を有する有機亜鉛試薬を用いることができた。さらに、ケトン、エステル、アルデヒド、スルフィド、アリールブロマイド等の官能基を有するチオールエステルの反応が良好に進行した。また、本反応をα-アミン酸から導いたチオールエステルに適応したところ、ほぼラセミ化することなく望みのα-アミノケトンが得られることが分かった。以上のように、今回開発に成功したケトンの合成法は、種々の反応性の高い官能基が存在してもチオールエステルのみケトンに変換できる非常に官能基選択性の高い反応であり、官能基の多く存在する複雑な化合物の多段階合成において非常に有用なケトン合成法となることが予想される。
|